@米国ホワイトハウス・大統領執務室・某日…
大統領執務室には、何度も入ったことがある。この同じ部屋で、かつての大統領たちと会ったこともある。だが、今回はただの対面インタビューではない。トランプ政権の公認の伝記を執筆するためである。
しかもちょうどその朝、インタビューの録音許可が下りたばかりだった。現ホワイトハウスが録音を許可するのは異例の処遇だった。
大統領は小ぶりな書類の束を頭上で振ってみせた。まるで子どもにキャンディーを見せびらかしているようだった。
「君には何もかも見せようということで意見が一致したよ」
大統領はまた書類を振った。
「こいつはまだ誰にも見せたことがない。スタッフは君に渡すべきではないと言うんだが、私は君に読んでほしい。今回の本を書くなら読むべきだ」
「プライベートなものだ。私と金正恩が個人的にやりとりした手紙だよ。君にやるわけにはいかないが、読んでいい。これは驚くべきものだ。まさに歴史だよ。読んで、意見を聞かせてほしい」
トランプが本書の企画に乗り気なのは明らかだった。こちらからはまだ大統領に何の要求もしておらず、質問すらしていないのに、こうして私の目の前で手紙―最大のお宝―を振りかざしているのだから。
「絶対に手紙を撮影したりコピーしたりしないように」
そしてつけ加えた。
「両国が開戦ぎりぎりまで行ったことは、永久に公表されずに終わるだろうな」
(※本書より一部抜粋/省略)